
ワケもなく
藤岡弘
『SR サイタマノラッパー』《あらすじ》ライブハウスもレコ屋もない埼玉県北部の田舎町・フクヤ市に暮らす ダメなニートラッパ
ーのIKKU(
駒木根隆介)は、仲間のTOM(
水澤紳吾)やMIGHTY(
奥野瑛太)等と共に結
成したヒップホップグループ=『SHO-GUNG』で、いつの日かステージに立つ事を夢見て
いた。 そんなある日、東京でAV女優として活躍していた高校の同級生の千夏(
みひろ)
が帰ってきて…。 監督・
入江悠。
《極私的見解》・ いやこれは文句ナシに面白かった。 一見してイロモノ的な匂いの漂う作品タイトルや、
元・AV女優の
みひろ以外は ほとんど無名のキャスト陣のおかげで、観る側としてもか
なり斜に構えながら本作に臨んだワケですが、そんなネガティヴな先入観を打ち砕い
て余りある爆笑と感動が、この作品にはひしひしと息づいておりました。 あんまり面白
いモンだから、二日連続で今作を観てしまった程です。
・ まず何と言っても
駒木根隆介演じるダメなニートラッパー・IKKUが発する絶妙にトホ
ホなオーラにヤラれました。 上から下まで一揃えしか持っていないヒップホップ・ファッ
ションに身を包み、埼玉の長閑な田園風景の中を リズミカルに身体を揺らしながら闊歩
していくIKKUの雄姿(?)が爆笑と哀愁を誘います。
・ かつて東京でAV女優として活躍していた高校の同級生・小暮千夏役の
みひろの演
技も実にナチュラルで達者でした。 『ここ埼玉から 世界に向けて ソウル・トゥ・ソウル
メッセージ送ってんだよ』というIKKUのセリフに対し、
みひろが『宇宙人かよ、お前』と
冷ややかに ツッこむ場面での 間の取り方の上手さなんかは 特筆モノ。
・ フクヤ市のお偉いさん方の前でIKKU・TOM・MIGHTYの三人でラップを披露する場面
は今作のハイライト。 腹筋がちぎれるんじゃねえかって位に笑えます。 特にMIGHTY
役を演じる
奥野瑛太のお調子者っぷりたるや! 『いきいき』だとか『さわやか』といった
当たり障りの無い枕詞がよく似合う市政の現場でヒップホップをブチかますと、かくもカ
オスでトホホな磁場が発生するんですね。
・ 物語終盤、仲間だと信じていたSHO-GUNGのメンバーから『お前は俺等を笑わせるた
めの“ネタ”だ』と知らされるIKKU。 さらに追い討ちをかけるように、密かに思いを寄せて
いた
みひろもフクヤの町を去り、失意のドン底に突き落とされた彼が、バイト先の大衆
食堂で かつての盟友・TOMに再会し、ラップで思いの丈を彼にぶつけるシーンはマジで
圧巻です。 日本でラップをやる事、日本語に乗せてラップをやる事の違和感やトホホ感
を さんざん体現し続けてきたIKKUが 何もかも失った地平から絞り出す渾身のライムは
ビックリする位にカッコ良くて、切実で、思わず泣かされてしまいました。 何つうのかな、
この『最初は 爆笑しちゃうんだけど、その内に考えさせられて、しまいには泣かされる』
っつう感覚って、どことなく
岡村靖幸の曲の世界観に通じている気がします。 真剣だか
ら笑えるし、泣ける― この感覚を共有できるか否かで、今作の楽しみ方は大きく変わっ
てくるのではないでしょうか。
・ 最後に一点。 今作には邦題ならぬ英題なるモノが用意されておりまして、それがあの
エミネム主演の映画『
8マイル』を自虐的にもじった『
8000マイル』だってんだからシビ
れます。 ヒップホップの本場・アメリカから遠く8000マイル離れたここ日本に、果たして
真の意味でヒップホップカルチャーが根付く日が来るのかどうか、皆目見当もつきませ
んが、ただ一つ確かな事は、この『
SR サイタマノラッパー』が まぎれもなく青春映画
の傑作であるという事です。 ひとつの夢を愚直に追いかけている最中の方に是非とも
観て頂きたい一本。 超オススメですぞ。
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画
- 2010/10/03(日) 23:18:55|
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